不動産業界に勤めている方の中には、将来的に独立を考えている方もいらっしゃいます。
不動産業の独立は、一般的な起業より初期費用がかかるケースが多いため、開業前に必要な費用を理解しておく必要があります。
また起業してから開業するまで日数もかかることから、あらかじめスケジュール管理が必要です。
本記事では宅建士が独立開業するための費用と手続きについて解説します。
これから不動産業を開業したい方はぜひ参考にしてください。
宅建士が独立するために必要なもの
宅建士の資格を保有している方は、「宅地建物取引業免許」「事務所」「営業保証金の供託」が必要です。
ここでは3つの項目について解説します。
宅地建物取引業免許
宅建士の資格を保有している方は、宅地建物取引業免許の認可が必要となります。
宅地建物取引業免許とは、宅地や建物の売買に関する行為、または交換や賃借の仲介を反復的に行うための免許です。
一度きりの売買や、特定の人との繰り返し売買であれば、宅地建物取引業免許は不要です。
しかし独立される方は、数多くの売買や賃貸の仲介を行うため、国土交通大臣または都道府県知事へ申請して宅地建物取引業免許を認可される必要があります。
事務所の用意
宅地建物取引業の認可を受けるためには、事務所が必須です。
申請書には事務所の所在地を記載する項目があり、宅建士が開業するためには「法人を設立する前」に事務所を用意する必要があります。
営業保証金の供託金
営業保証金の供託金は、不動産業界の支払いリスクを補填するために用意します。
万が一、宅建業者に不動産を売却する売り主へ代金が支払えないというケースに備え、供託金から顧客に支払することになっています。
供託金の用意ができない場合は、不動産業を開業することはできません。
営業保証金の供託は、
- 営業保証金制度 :宅建業者が法務局に預ける保証
- 弁済業務保証制度:宅地建物取引業保証協会に加入して預ける保証
この2種類があります。
営業保証金は、現行法上最低1,000万円と高額のため、宅建業を開業できる方が制限されてしまいます。
しかし弁済業務保証制度であれば、団体に加入する方が少しずつ供託金を出し合う形となるため、供託金が安くなります。
その点を踏まえ、次の項では宅建士が独立するための費用を紹介します。
宅建士が独立開業するための3つの費用
宅建士が独立開業するためには、以下の3つの費用を用意する必要があります。
供託金
供託金は営業保証金制度の場合は1,000万円、弁済業務保証制度の場合は60万円です。
費用面を比較してわかる通り、弁済業務保証制度の方が安く抑えられるため、宅地建物取引業保証協会に加入される方が多いです。
宅地建物取引業保証協会は以下の2つの団体があり、それぞれ供託金の他に入会金や年会費が別途かかります。
費用面を比較していただきたいですが、全国宅地建物取引業協会連合会に加入する方も多く、全国の宅建業者のうち約80%が加盟しています。
とはいえ、どちらの団体へ加入しても問題ありません。
全国宅地建物取引業協会連合会(ハトマーク)
全国でも10万人以上が所属している団体です。
国内最大級であり都道府県毎に支部が分かれていますが、各支部との交流も多く情報交換が盛んにできます。
- 入会金20万円
- 年会費6,000円
- 宅建協会や組合への入会金120万円前後
合計146万円前後
全日本不動産協会(ウサギマーク)
全国で約3万5,000人の会員数を誇る団体です。
60年以上の歴史を誇り、会員同士のネットワークも強いのが特徴です。
- 入会金70万円
- 年会費8万4,000円
- 不動産保証協会や関連団体への入会金100万円前後
合計176万円前後
宅建免許の申請手数料
宅建免許の申請をする場合、
- 国土交通大臣認可 :9万円
- 都道府県認可の場合:3万3,000円
の申請手数料が必要です。
国土交通大臣は2つ以上の都道府県で事務所を設立する場合に申請し、1つだけの場合は都道府県となります。
ただし、一つの都道府県で複数店舗設ける場合は、店舗数分の申請手数料が必要となります。
事務所開設費用
事務所を開設する場合は、以下の項目の費用が必要です。
- 事務所の賃貸借費用(敷金・礼金・仲介手数料・家賃・保証料など)
- 事務用品(PC・コピー機・デスクなど)
- 法人登記費用
事務所の賃貸借費用はケースバイケースであり、持ち家を事務所にする方は賃貸借費用はかかりません。
また、事務用品もすでに用意できている方は別途用意する必要もないでしょう。
ただし、法人登記に関しては費用が発生します。
法人登記は法務局に会社を登記する手続きのことであり、資本金や法定費用などによって異なります。
- 一般的に合同会社の場合:10万円〜15万円前後
- 株式会社の場合 :25万円〜30万円前後
とされています。
さらに司法書士などの専門家に登記を依頼する場合、別途5万円〜10万円程度の報酬額を支払います。
もちろん専門家によって報酬額は異なるため、依頼する前に確認しておきましょう。
宅建士が独立開業するための5つの手続き
宅建士が独立開業するまで、大きく分けて以下のステップを行います。
- 日本政策金融公庫の融資審査:1~2ヶ月前後
- 事務所の用意 :1ヶ月前後
- 会社の設立 :1~2ヶ月前後
- 宅地建物取引業の免許申請 :1~1ヶ月半
- 保証協会へ加入 :1~2ヶ月前後
おおよそ融資審査から営業開始まで5~9ヶ月半前後要します。
では、手続き内容を詳しく解説します。
日本政策金融公庫の融資打診
起業したものの「資金がなくて営業できない」というケースに備え、独立する方の多くは、日本政策金融公庫の融資を借りて資金調達を行います。
民間の金融機関は、営業実績のない会社に融資することはほとんどないため、日本政策金融公庫に相談するのが一般的です。
融資打診は創業計画書を初め、事業計画書や収支計画書など、起業する事業の目的や予想利益を表した書類を作成し、身分証明書などと一緒に提出して審査を受けます。
自己資金額によって異なりますが、新創業融資制度の融資限度額は3,000万円(うち運転資金1,500万円)まで借入することが可能です。
審査日数は各支店や混み具合によって異なるものの、1~2ヶ月前後を要するため、開業を決めた段階で早めに融資打診を行っておきましょう。
事務所の用意
資金調達が完了した後、もしくは融資の打診と並行して事務所の用意を行います。
不動産業の事務所にはさまざまな規定が設けられているため、種別毎にチェックしていきましょう。
なお、レンタルオフィスなどは継続的に使用できないうえ、他利用者との共有スペースという扱いになるため認められません。
事務所・店舗の場合
- 事務所専用の出入り口がある
- 他の事務所に通らずに出入りできる空間であること
自宅の場合
- 居住者の玄関とは別に事務所に入る専用入り口がある
- 居住スペースと事務所が区切られている
- 事務所としての形態が整っている
不動産業の事務所は「独立した空間」であることが大切です。
自宅の一室を事務所にしたい場合、玄関とは別に専用の入口を設ける必要があります。
マンションやアパートの一室の場合
- 事務所専用として使用している、または賃貸借契約を締結していること
- 商号(看板)の提出が可能であること
- 居住空間ではないこと(居住空間と別の出入り口があれば問題なし)
マンションやアパートの一室を事務所にしたい方は、居住スペースとは別の入口をリフォームすることが難しいため、事務所だけの用途としている方が多いです。
会社の設立を行う
事務所の準備が完了した後は、会社の設立を以下のステップで行います。
- 事務所の商号・役員・目的などを決定する
- 定款を作成し、公証役場へ提出
- 出資金を支払う
- 法務局にて法人登記を行う
- 税務署へ法人設立届出書を提出する
会社の設立は自身で行うことも可能ですが、司法書士や行政書士に一任される方が多く、1~2ヶ月前後で完了します。
宅建免許申請
宅建免許申請は、設立する事務所の数に応じて「国道交通省」または「都道府県」の各都道府県宅地建物取引業免許事務担当課へ必要書類とともに提出します。
必要書類は以下の表の通り、
- 書類を作成する書類
- 自身で用意する書類
に分かれます。
また必要書類の提出と同時に申請手数料を支払い、1~1ヶ月半ほどで交付されます。
作成する書類
- 宅許申請書
- 宅地建物取引業経歴書
- 誓約書
- 専任の取引士設置証明書
- 事務所を使用する権原に関する書面
- 略歴書
- 宅地建物取引業に従事する者の名簿
国土交通省のホームページにある建設産業・不動産業:様式ダウンロード – 国土交通省 (mlit.go.jp)では、
作成する書類に関してのひな形が用意されており、Excelで入力すると連動して作成されます。
用意する書類
- 身分証明書
- 登記されていないことの証明書(法務局で取得)
- 納税証明書(役所で取得)
- 事務所付近の地図
- 事務所の写真
宅地建物取引業保証協会へ加入
宅地建物取引業免許の認可が下りた後は、宅地建物取引業保証協会へ以下の4つのいずれかの方法で供託金を支払い加入します。
- 供託金窓口で現金納付
- 日本銀行または代理店で納付
- インターネットバンキングで電子納付
- 口座振り込み
また、同時に入会金や年会費を支払うことにもなるため、あらかじめ費用を用意しておきましょう。
宅地建物取引業保証協会への支払いが完了した後は、1ヶ月前後~2ヶ月前後で加入が認められ、免許証が発行されて営業を開始することができます。
独立後の宅地建物取引業免許更新について
独立した後は、宅地建物取引業免許更新を行うタイミングがありますので、ここでは更新時に注意すべき3点を紹介します。
宅地建物取引業免許の有効期限は5年間
宅地建物取引業免許の有効期限は5年であるため、期限が近付いてきた際は更新が必要です。
5年以降も営業する方は、有効期間が満了する90日前から30日前までに3万3,000円の申請料とともに更新申請を行います。
申請した後は、審査機関となり、
- 都道府県免許の場合は30〜40日程度
- 国土交通大臣免許であれば100日程度
を要します。
更新をしなかった場合は免許失効となり、不動産業を行えないため注意してください。
専任の宅地建物取引士などが変わった時は変更手続きを行う
会社の規模も大きくなり、複数店舗営業することになった方は、各店舗毎の専任の宅地建物取引士の変更届を提出しなければいけません。
不動産業は各店舗に一人以上の宅建士が居なければ営業できず、複数店舗を保有するということは、店舗数に合わせた宅建士が必要です。
独立した方の名義のまま変更届を提出しないと宅地建物取引業免許の更新ができず、罰則規定もあります。
そのため、専任の宅建士などが変更となった際は、手続きを失念しないように注意してください。
また宅建士以外にも以下の項目が変更となった場合、変更届が必要となります。
- 商号又は名称
- 代表者
- 役員
- 政令使用人(支店長など)
- 事務所の設置、廃止、移転など
掲示義務のある標識を忘れない
宅建業事務所には
- 宅地建物取引業票
- 報酬額表
の標識を掲示する義務があります。
さらに宅地建物取引業免許更新時には、掲示していることを証明するため写真を提出する必要があります。
古いままの標識の場合は補正指示があるため、最新のものを掲示することを忘れないようにしましょう。
まとめ
今回は宅建士が独立開業するための費用と手続きについて解説しました。
供託金や団体への入会金、申請関連費用を含めると、独立開業するにはおおよそ200〜300万円の費用が必要です。
また独立を決めてから開業できるまで、5~9ヶ月半前後要するため、事前に予算組とスケジュール管理を行っていたほうが良いでしょう。